LFJ TOKYO、東京国際フォーラム、ホールA。
ショパン ピアノ協奏曲第2番。
赤いパンツスーツで現れた小林愛実は、今にも泣き出しそうな表情のまま、クリスタルで、月の光のように冷たくて、とびきり美しいピアノを弾きはじめた。その抑えられたクールなトーンは、アンコールのショパンのノクターン第20番(遺作)まで貫かれていた。
“生命の躍動”としかいいようのないショパンのプレリュード全曲を東京郊外の小さなホールで聞いたのはいつだったか。彼女がショパン・コンクールで4位になるちょうど1年前なので2020年だったな。
あれから、ピアノの美しさに磨きがかかった気がする。ただ、おいおいどうした、といいたくなるくらい物悲しいショパンだった。
かつて、モオツァルトのかなしさは疾走する、と書いた評論家がいたが、ショパンの悲しさは青く儚い。小林愛実はピアノ・コンチェルトの2番と遺作のノクターンを弾くことで、内緒だよ、といいながらその青く儚い“ショパンの胸の裡”をそっと見せてくれたのだ。